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【小説レビュー】「ひと」:小野寺史宜

小説レビュー「ひと」 小説

両親を亡くした青年が、人とのつながりを糧に進んでいく物語。

小説「ひと」を紹介していく。

 

作品情報

著者:小野寺史宜

出版社:祥伝社(祥伝社文庫)

ISBN:978-4-396-34718-5

 

感想

父を事故で亡くし、母が突然死した元大学生のお話

女手ひとつで僕を東京の私大に進ませてくれた母が急死した。僕、かしわせいすけ二十歳はたちの秋、たった独りになった。大学は中退を選び、就職先のあてもない。そんなある日、空腹に負けて吸い寄せられたすなまちぎん商店街のそうざいで、最後に残った五十円のコロッケを見知らぬおばあさんに譲ったことから、不思議な縁が生まれていく。本屋大賞から生まれたベストセラー、待望の文庫化。

小野寺史宜、「ひと」、祥伝社、2021年、裏表紙より引用

 

物語の主人公は元大学生の青年。

特筆すべきなのは、彼には父も母も頼れる親族もいないということだ。

 

大学に入った時点で既に、頼れるのは母親だけだった。

そして、その母が亡くなったところから物語が始まる。

 

 

大変な彼の境遇。

今なら少しだけなら、想像できる。

 

大学生の時に、親が亡くなったらどうなるか。

ある程度分かるからだ。

 

 

彼はまだ20歳。在学していたら卒業まで2年以上ある。

つまり就職先も決まっていない

 

 

そんな状況で頼れる親戚がいなくなってしまったら。

しかも、学校を辞めざるを得なくなってしまったら。

 

文字通り絶望的だ。

 

社会に出て、仕事をして、自立していたら、傷はもっと浅かったかもしれない。

 

年齢が近いからこそ、その辛さが伝わってくる。

 

ひと

 

さて、そんな絶望的な状況に陥ってしまった主人公。

 

彼を救うのは、タイトルの通り「ひと」とのめぐり逢いである。

 

 

運命的な出会いをした、惣菜屋の夫婦を始めに

高校の同級生との再会、大学のバンド仲間、女手一つで息子を育てる母、父親のかつての仕事仲間、etc.

 

心地の良い繋がりもあれば、二度と顔を合わせたくない人とも出会う。

 

色々な出来事を通して主人公は成長していく。

いいことも悪いことも自分の糧にしていく。

 

彼は謙虚なのである。

 

 

そして、その謙虚さや人柄・姿勢こそ周りとのつながりを引き寄せたのだと思う。

 

読みやすい

 

本書は読みやすい。

主人公と年齢が近く、共感しやすいからかもしれない。

 

それ以外にも、理由がある気がする。

 

例えば、視点。

物語は主人公の一人称で語られる。

 

つまり、主人公の内面を直接文章として投影している。

そうなると、文体はその人物の語彙や思考に依存する。

 

本書は主人公が大学生ということで、会話文以外も砕けた文章になり、読みやすくなっていると思う。

 

 

全体を通して300ページ以上ある作品ではあるが、かなり短く感じるのではないだろうか。

 

それに加え、一文一文が短い。

そのため、文の構造が簡単で読みやすくなっている。

 

 

普段本をあまり読まない人にもオススメできる1冊だ。

 

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(※アイキャッチの書影画像は版元ドットコムから利用しています)

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