読書中とてつもない不快感を感じて、今すぐに本を閉じて何かほかの事をしたい
だが同時に、先が気になって仕方ない
そんな小説に出会ったことがあるだろうか。
「読みたくないのに、なぜページをめくる手が止まらない」
今回は、そんな小説「代償」を紹介していく。
作品情報
著者:伊岡瞬
出版社:KADOKAWA(角川文庫)
ISBN:978-4-04-103992-2
感想
不遇な少年
読んでいると不快感がこみ上げてくる。
そんな物語はそうそうないだろう。
ところが、本書「代償」はそんな物語だ。
平凡な家庭で育った小学生の圭輔は、ある不幸な事故をきっかけに、遠縁で同学年の達也と暮らすことに。運命は一転、過酷な思春期を送った圭輔は、長じて弁護士となるが、逮捕された達也から依頼が舞い込む。「私は無実の罪で逮捕されました。どうか、お願いです。私の弁護をしていただけないでしょうか」。裁判を弄ぶ達也。巧妙に仕組まれた罠。追いつめられた圭輔は、この悪に対峙できるのか? 衝撃と断罪のサスペンスミステリ。
伊岡瞬、「代償」、KADOKAWA、2016年、裏表紙より引用
主人公、圭輔はかなり不遇な少年だ。
小学生の時、火事で両親を失い、遠縁の家庭に居候することになる。
その家庭が、親切で温かい空間だったらどれだけよかったことだろう。
(もしそうだったら、本書は物語として成立しないが…)
圭輔は辛い学生時代を過ごすことになる。
そして、時間は彼が弁護士となったところへ移るのだ。
不愉快な物語
お分かりの通り、本書は二部構成である。
1部:主人公の小学生から中学時代について
2部:弁護士になり、とある事件に巻き込まれる話
だ。
そして、全体としてはミステリー作品でもある。
1部はただの胸糞悪い物語だ。
後半に差し掛かって初めて、本書がミステリーだとわかる。
それまでは単なるサスペンス作品だ。
物語を不快たらしめる諸悪の根源は、主人公と同学年の達也だ。
主人公に次いで重要な人物である。
もし、同学年に彼のような人物がいたら、絶対に関わらないであろう人間だ。
同時に、クラスの人気者になっているかもしれない。
彼という存在が、物語のスパイスであり、小説を面白くさせている気がする。
ミステリー
第2部は肝心のミステリーパートだ。
第1部の時に深堀されなかった内容をもとに、推理が展開されていく。
おそらく、第1部を読んだだけでは、本書がミステリーだと気づけないだろう。
そのくらい物語が劇的に変化する。
前半では億劫だったのにもかかわらず、後半では先が気になって仕方ない。
自ずと読み進めるスピードも上がっていた。
多くの人にとって本書の前半が峠になるだろう。
果たして、主人公と達也の数奇な関係はどこに決着するのか。
気になる方は、ぜひ手に取ってみてほしい。
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