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【小説レビュー】「王とサーカス」:米澤穂信

小説レビュー「王とサーカス」 小説

ジャーナリスト太刀洗万智の物語。

小説「王とサーカス」を紹介していく。

 

作品情報

著者:米澤穂信

出版社:東京創元社(創元推理文庫)

ISBN:978-4-488-45110-3

 

感想

太刀洗万智シリーズ

 

本作の主人公は太刀洗万智という名の女性。

 

彼女が初めて登場するのは「さよなら妖精」という長編小説である。

このときは高校生であり、主人公ではなかった。

 

月日が経ち、記者となった彼女を描いているのが「真実の10メートル手前(短編集)」と「王とサーカス(長編)」である。

 

 

太刀洗万智が登場する小説はこの三作が刊行されており、「ベルーフシリーズ」と呼ばれている。(2023年2月現在)

 

 

「さよなら妖精」が一番最初の出来事であることはわかりやすいが

残り二作についての時系列は少々ややこしい。

 

 

短編集のうち、表題作「真実の10メートル手前」が最初に位置し

その後、長編「王とサーカス」に繋がり

そして、短編集の残りの物語が起きる。

 

短編集の間に、長編が挟まるという流れになっているのだ。

 

 

ただし、時系列に沿って読む必要はないと思う。

どこから読んでも、楽しめるような構成になっている。

 

ただし「さよなら妖精」を先に読んでおくと、面白さは増すかもしれない。

 

ジャーナリズム

海外旅行特集の仕事を受け、太刀洗万智はネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとした矢先、王宮で国王殺害事件が勃発する。太刀洗は早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり……2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクション、米澤ミステリの記念碑的傑作。

米澤穂信、「王とサーカス」、東京創元社、2018年、裏表紙より引用

 

記者とは、世の中の出来事を人々に伝える人だ。

 

彼女は事件を取材・調査し、世に発信する。

つまりは、ジャーナリズムを題材としたミステリーなのである。

 

 

特に本書「王とサーカス」はその傾向が強いと思う。

 

 

本書で描かれるのは、新聞社をやめたばかりであるフリージャーナリスト・太刀洗万智だ。

 

彼女にとって、新たな一歩である。

 

 

そんな彼女だったが、異郷の地ネパールにおいて、その足元が揺らぐような出来事に遭遇することになる。

 

今まで信じてきた、記者としての信念がもろくも崩れ去った。

 

 

そして問われるのだ。

「なぜ、私は伝えるのか」ということを。

 

 

自問自答する彼女の姿、そして自分の信念を一から組み上げる姿を見ると

読んでいる側も一緒に考えざるを得ない。

 

だからこそ、本書は

「ミステリーであることより、ジャーナリズムについての物語」

という印象が残るのである。

 

「真実の10メートル手前」が読みたくなる

 

本作「王とサーカス」は、太刀洗万智のターニングポイントともいえる事件を描いた作品だ。

 

人はそれを機に変化する。

ゆえに転機と呼ばれるのだ。

 

 

シリーズものでない作品の場合、ある人物の転機を描くことがあっても、その後を描写することはあまりない気がする。

 

大抵は、将来をほのめかしながらエンディングを迎える。

その後を知ることはできないが、著者は読者の想像力に委ねることが可能だ。

 

それでも、続きが気になってしまうのが読者の(特に私の)性である。

 

幸いなことに本書は、ベルーフシリーズの1冊であり、続きの物語が存在する。

 

 

彼女はどう変わったのか、知ることができるのだ。

 

こんなわけで、「真実の10メートル手前」を読みたくなったのである。

 

関連書籍

ベルーフシリーズ

 

その他

 

(※アイキャッチの書影画像は版元ドットコムから利用しています)

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