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【小説レビュー】「真実の10メートル手前」:米澤穂信

小説レビュー「真実の10メートル手前」 小説

米澤穂信先生といえば「古典部シリーズ」である。

 

「氷菓」というタイトルでアニメ化され、第2期も待ち望まれている作品だ。

 

アニメから入って小説を読み、大ファンになった方もいるだろう。

 

 

そんな人には「ベルーフシリーズ」もオススメしたい。

特にアニメから小説を読むようになった人には。

 

 

古典部シリーズより苦みが強く、読者に影を落としていくような物語。

 

ジャーナリスト太刀洗万智を主人公に添えた短編集

真実の10メートル手前」を紹介していく。

 

作品情報

著者:米澤穂信

出版社:東京創元社(創元推理文庫)

ISBN:978-4-488-45109-7

 

感想

「さよなら妖精」の太刀洗万智

 

本作の主人公はフリージャーナリスト太刀洗万智

頭が切れる女性で、本書の探偵役である。

 

 

彼女が初めて登場するのは「さよなら妖精」。

【小説レビュー】「さよなら妖精」:米澤穂信
海外からやってきた少女。帰国後、彼女が残していった謎...。小説「さよなら妖精」を紹介していく。著者:米澤穂信 出版社:東京創元社(創元推理文庫)

 

まだ高校時代の太刀洗が登場する。

ただし、彼女は主人公ではない。別の人物視点で物語が進んでいく。

 

 

 

「真実の10メートル手前」では、彼女が主人公かつ視点主である。

 

「さよなら妖精」では、ミステリアスで謎に包まれた人物だった。

しかし本書では、その内面が明かされる。

 

 

本書を読めば、高校時代の彼女が「どんな考えに基づいて」行動したかわかるだろう。

 

そして、「なぜ、彼女がジャーナリストになったのか」察せられる気がする。

 

だからこそ、2冊一緒に読んでほしい。

 

連作短編集

高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める……太刀洗はなにを考えているのか? 滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。

米澤穂信、「真実の10メートル手前」、東京創元社、2018年、裏表紙より引用

 

本書は連作短編ミステリーである。

 

要は、それぞれ関連のある話が収録された短編集ということだ。

ただし、時系列が多少複雑になっている。

 

 

 

表題作かつ、本書の冒頭の物語「真実の10メートル手前」が、時系列的に最初の事件。

 

そして長編「王とサーカス」に続き、その後、本書の残りの話に繋がる。

 

 

 

もちろん、順番通りに読まなくても大丈夫な内容・構成になっている。

 

だが個人的に「王とサーカス」もセットで読んでほしい。

太刀洗万智のターニングポイントとなる事件が起こるからだ。

 

その事件を境に、彼女は一つの信念に辿り着いたように見える。

 

本書を読んだだけでは、曖昧に見えるその変化が

「王とサーカス」によって明確にされていると思う。

 

後味の悪い事件

 

米澤穂信(敬称略)が作る物語は大抵人が死なない

 

「古典部シリーズ」がその典型だ。

学校という舞台なので、当たり前なのかもしれないが。

 

 

それに対し、本シリーズは人が死ぬミステリーだ。

 

そして、描かれる事件は大抵後味が悪い

 

 

これが太刀洗万智の運命なのだろうか。

「さよなら妖精」で描かれた、異国の少女にまつわる事件もそうだった。

 

そして、本書で語られる事件も、「王とサーカス」で描かれる物語も。

 

 

凄惨で胸糞悪い事件があれば、やるせなさが残る事件もある。

やりきれなさ、悲しさ。

 

 

事件を解決した。犯人には仕方がない理由があった。和解してスッキリした。

という話はほとんどない。

 

 

ハッピーエンドが好きじゃない

という人はぜひ読んでみてほしいシリーズだ。

 

関連書籍

ベルーフシリーズ

 

その他

 

(※アイキャッチの書影画像は版元ドットコムから利用しています)

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