書籍情報
著者:伊坂幸太郎
出版社:講談社(講談社文庫)
ISBN:978-4-06-277078-1(上巻)、978-4-06-277079-8(下巻)
あらすじ
恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。
伊坂幸太郎、「モダンタイムス」、講談社、2011年、裏表紙より引用
感想
モダン・タイムス
どうやら、タイトル「モダンタイムス」の由来は1930年代の映画「モダン・タイムス」らしい。
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この作品は
「労働者の尊厳が失われ、まるで機械のパーツのようになっている現代」を喜劇的に風刺したものである。
現代では生産性を上げるため、複数人で役割を分担してモノを生産する『分業』が行われている。
分業によって、作業は単純化される。
しかし、これは良いことなのだろうか
細分化された仕事をしていると、全体が見渡せなくなるのではないか。
自分の仕事がどういう影響を及ぼしているのか、分からなくなるのではないか。
そんなことを考えさせられる映画が「モダン・タイムス」である。
再度言うが、小説「モダンタイムス」はこの映画にちなんでタイトルがつけられている。
果たして、どのような関係があるのだろうか。
ぜひ、小説を読んで確かめてみてほしい。
伊坂幸太郎の著書「魔王」の続編
この作品は伊坂幸太郎による著書「魔王」の続編にあたる。
実際に「魔王」の50年後の世界を舞台にしている。
ここで不安になる人もいるだろう。
大丈夫、「魔王」を読んでいなかったとしてもOKだ。
二つの作品はそれぞれ独立している。
つまり別作品として楽しむことができる。
ただ、「魔王」を読んでおくと
- あの人、あの後こんなことしたんだなあ
- こんな出来事が起こっていたのか
- このキーワードってあの人が関係してるのか
とか思いながら見ることができる。
二つの作品を一つの物語のように読むことができるかもしれない。
個人的には、先に「魔王」を読むことを推奨したい。
コミカルとトラジカル
本作はコミカルな部分とトラジカルな部分が合わさって構成されていると思う。
身の毛もよだつような出来事に見舞われたと思ったら、クスっと笑えるような会話がある。
指を切られる、という恐怖体験をしているのに言葉の端々にユーモアが垣間見える。
場面にそぐわない会話がなされるので
「何言ってんだ、こいつは」
と思うが、あまりにも自然に会話が進んでいくので、胸に落ちてしまう。
これは他の作家にはない特徴だと感じる。
恐怖を恐怖で押し切るということをせず、あえてユーモアを織り交ぜることによってほかの作品にはない雰囲気を醸し出している気がする。
井坂好太郎
主人公ではないが、脇役として “井坂好太郎” という人物が登場する。
まさか、伊坂幸太郎が自分をモチーフにして登場人物を作ったのか。
と思っていたが、違った。
また、作中には、井坂好太郎なる登場人物が出てきます。これは単純に、小説家の名前を考えることが億劫になり、自分の筆名を変形させたに過ぎません。
伊坂幸太郎、「モダンタイムス(下)」、講談社、2011年、p452
とあったので少し安心した。
作中の “井坂好太郎” なる人物のような人が存在し、なおかつ現実の人物をモチーフにしていた場合、様々な問題が生じると思ったからだ。
まさか、あとがきを読んで安心する日が来るとは思わなかった。
人としてはどうかと思うが、物語の重要人物であることには間違いないので注目して読んでみるのもいいかもしれない。
なかなかに掴みどころのない人物である。
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