小説

【小説レビュー】「パラドックス13」:東野圭吾 -街から人が消えた-

小説

 

書籍詳細

著者:東野圭吾

出版社:講談社(講談社文庫)

ISBN:978-4-06-277827-5

 

あらすじ

13時13分13秒、街から人が消えた。無人の東京に残されたのは境遇も年齢も異なる13人の男女。なぜ彼らが選ばれたのか。大雨と地震に襲われる瓦礫の山と化した街。そして生き抜こうとする人達の共通項が見えてくる。世界が変われば善悪も変わる。殺人すらも善となる。極限状態で見えてくる人間の真理とは。

東野圭吾、「パラドックス13」、講談社、2014年、裏表紙より引用

 

感想

人が消えればルールは変わる

ルールはそこに属するすべての人のために作られていると思う。

 

人が消え、少数で集団生活することになった場合、以前のルールは適用できない。

 

大人数の集団なら利益になっても、少人数になると害になることがあるからだ。

 

それを表す象徴的なことがこの作品では起こる。

 

「では訊くけど、ミルクを飲めなくて赤ん坊が餓死するのと、太一が栄養失調で倒れるのとでは、我々にとってはどちらのほうが痛手だろう?」

東野圭吾、「パラドックス13」、講談社、2014年、p365

 

これは食料が限られている中、赤ちゃんの粉ミルクをつまみ食いしてしまった男へ発せられた言葉だ。

 

人数が限られているということは、集団のために働ける人が少ないということだ。

それに反して過酷な環境の中、生き残るためには全体のために働く人が必要になる。

 

誰を救うべきなのだろうか。

 

勿論、赤ちゃんを犠牲にすることはあってはならない。

だが、集団を優先するならば既存のルールに絶対はない。

 

そして誰かを切り捨てることも考慮に入れなければいけない。

 

 

極限状態に陥ったとき、既成概念にとらわれる人は生き延びることができないのかもしれない。

 

周りの人々が消え失せたら

小学生や中学生の時に

「もし世界で一人きりになってしまったらどうしよう」

と考えたことがある人はいるはずだ。

 

周りの人々が消え失せて、自分一人だけになったらどうなってしまうのだろうか、と。

 

そんな夢想を小説の形で物語にしたのが本作だと思う。

ただし、自分以外にも残った人が数人いるが。

 

 

幼い時の夢想には、ほかの人がいなくなった影響を考慮に入れていなかったと思う。

 

自分が暮らしている家や町、さらには国の機能がそのままであると思っていた。

そして、残された数多くの中から選択できるものだと勘違いしていた。

 

現実は違う。

今暮らしているこの世界は多くの人の手によって作られている。

 

  • 水道を維持すること
  • 家庭に電気やガスを提供すること
  • 人や車が行き来する道路を作り維持すること
  • 建物が朽ちないようにすること, etc.

 

そのどれもが人なしでは機能しない。

 

人が存在し、働いている。

たったそれだけのことが大切に思えてくるのは、この小説のおかげだ。

 

わかりやすい

東野さんの本は読みやすく理解しやすく共感しやすい。

 

本書は全部で576ページある。

しかし、読むのに2日かからなかった。

 

(私が暇で時間があっただけかもしれないが)これは驚異的なことだと思う。

 

会話の部分とそれ以外のバランスが取れていて読みやすい。

なおかつ、先を気にならせるようなストーリー展開も読みやすさを生み出していると思う。

 

それに加えて、東野さんの作品はメッセージ性がはっきりしていると感じる。

 

メッセージ性がはっきりしていると、ブログを書きやすい、個人的にありがたい。

 

作中で提供される話題に、自分の意見という肉付けをするだけでいい。

それだけ、自分なりの意見を作りやすい作品になっていると思う。

 

 

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